現代でも夕方から夜にわたる挙式がありますが、昔は、婚礼は夜におこなうもので、門外にかがり火をたいて、迎えに出たそうです。
夜に行う理由は、1000年以上前に実在し、1005年(寛弘二年)9月に他界する迄その当時で85歳という長寿だった、陰陽師(おんみょうじ) 安倍晴明(あべのせいめい)で有名で、能や歌舞伎、浄瑠璃にも登場する「陰陽道(おんみょうどう)」による考え方が大きく影響しています。
■貞丈雑記 祝儀の部
男は陽なり、女は陰なり。昼は陽なり、夜は陰なり。女を迎うる祝儀なる故、夜を用いるなり。唐にても婚礼は夜なり。されば婚の字は女へんに昏の字を書くなり。昏は「くらし」とよみて日ぐれの事なり。しかるに今大名などの婚礼専ら午の中刻などを用いる事、古法にそむきたる事なり。
また、現代の結婚式との大きな違いとして、小笠原流に「とどあけ(とどわげ)」と呼ばれる「悪魔払い」の存在があります。婚礼の行列の中に、かつらめという婚礼の供をする女性とともに、背が高くおどろおどろしい顔を色どり髪をみだした悪魔払いの女性が婚礼時に召されたのだそうです。
■貞丈雑記 祝儀の部
婚礼の行列の中に悪魔払い<これをとどあけと名づくるとぞ>とて、たけ高くおそろしげなる女の顔をすさまじく色どり髪をみだして召しつるる事、今世上にはやる事なり。定めて古例も由来も有る事なるべし。
現代では、時代劇にすら出てこない婚礼の「悪魔払い」。
殺生を繰り返してきた、武家ならではの礼法のひとつかもしれません。